昨年大ヒットした映画に「シックスセンス」があった。主人公は、死者が見える「第六感(シックスセンス)」を備えた男の子で、その尋常ならざる力を持って生まれた故の苦しみが切なく描かれた佳篇であった。この映画を見て、私はあることを思い出した。
もう10数年前のことだが、仕様、環境、利便性はもちろん、価格も言うことなしの家がしばらく売れずに困ったことがあった。もちろん条件がいいからといって、必ずしも売れるとは限らない。しかし不動産屋にとって、「絶対イケル」と太鼓判を押した物件がなかなか売れないのは、経験上やはり不可思議なことなのだ。
そんなこんなでモヤモヤしながら、あるご家族をオープンハウスにお連れしたとき、妙なことに気付いた。子どもが家の中に入ろうとしないのだ。それまでご両親に注意されるほどはしゃいでいたのに、急に黙りこくってしまったのだ。よく、子どもには大人に見えないものが見えるという。その子の怯えた眼を見たとき、私は何かイヤな予感がした。
お断りしておくが、昔そこで何かの事件や不幸な出来事があったということは、決してない。もし仮にあったとすればお客様に必ず告知するし、第一そんなところに家を建てて売ろうとはしない。「一度、お祓いでもしてみようか・・・」などと半ば真剣に考えているうちに、幸いその家は売れた。買われたのはご夫婦だったが、お子様ができた後も幸せに暮らしていらっしゃる。
あのときの子どもの怯えた眼は、一体何だったのだろう? 見えないものが見えたのだろうか?もしそうだったとしたら、応仁の乱で焼け野原となり屍が累々となった京都で暮らすのは、とても辛いことだったろう。彼が大人になった今、シックスセンスを失っていることを、ただ祈るばかりだ。
いわく付きの物件は、確かに存在する。それらは格安で出され、売る側も「いわく」を告知する義務を負う。以前ならそんな家を買うのはそれこそいわく付きの人々だったが、最近はその価格故、一般の方も関心を持たれていると聞く。
付け加えておくと、私は20年以上不動産業に携わってきたが、幸か不幸かいわく付きの物件で実際に超常現象が起こったという話しを、まだ聞いたことがない(テレビに出てくる霊能者の話しを除いてだが)。しかし、私は何もお化けを信じていないわけではない。どちらかというと私は子どものころ、夜便所に行けなかったクチだ。
家を探している友人に「お化け付きの家を1000万引きでどうだ」と冗談話を持ちかけると、彼は「じゃあ値引分のうち100万をお祓いに使い、浮いた分の残りで新しい商売でも始めるか」と呵呵大笑した。なるほど、モノは考えようだ。
地に足がついている分、生きている人のほうがよほど逞しい。体を張れる分、生きている人のほうがずっと怖いものだ。不動産業という、人生に深く関わる仕事に長く携わってきたおかげで、そんな思いを強くしている。これからも、あの世の人を気にするより、この世の事をしっかり見つめ、生きていきたい。
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