転勤シーズンの春先は、家が一番よく売れる季節。その時期にあわせて新居購入を決められる新婚さんも多く、ちょうど今頃から家探しを始められるようで、弊社にもたくさんのご夫婦がお見えになる。仲むつまじくご相談されている姿を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。
しかし、幸せであるはずのスイートホーム購入が、ときに悲劇の幕開けに転じることもあるのをご存知だろうか。
こんなことがあった。新婚ホヤホヤのカップルが新居を購入されることになり、その資金の全額を新婦の親御さんが負担された。そして契約の日、同席された新郎のお母様はとても寂しそうに、こうおっしゃった。「孫が生まれても、お前の家には、そうそう遊びに行けないね」。その時私も、何とも言えない、やるせない気持ちになったのだ。
その後、新郎は新婦の両親に対する負い目と、自分の両親に対する申し訳なさとの板ばさみにたいへん苦しんだ。結婚前はとても理解のあった新婦との生活にも“ズレ”が生じはじめ、ついには「あなたの親が私たちに何をしてくれたの。全部私の親が面倒見てくれたのに」という言葉を投げ付けられるまでに。新郎はノイローゼとなり、結局その夫婦は離婚してしまった。
親にとって、子供はいくつになっても可愛い子供のまま。私も子の親であるから、子供を思う親御さんの気持ちはよくわかる。若い世代には家を買うのが何かと難しいこのご時世、手助けをしてやろうと思うのは当然の親心だろう。
そこで一度、あなた方の人生を振り返っていただきたい。今の地位や財力は、自分たちが努力をして築き上げたものではあるだろう。そして、その間の苦労は、かけがえのない財産となっているはずだ。「可愛い子には旅をさせろ」と言うが、子供さんのことを考えるなら、ぜひあなた方が歩んできた道へと導いてやってほしい。
そして、新婚さんへ。家づくりは子づくりと同じく、二人だけの力でやるべきだということを、覚えておいてほしい。それは決して、「親なんて関係ない」ということではない。逆に、お互いの親を思いやることなのである。先に紹介した話のように、どちらかの親に頼ると、一方の親にとても肩身の狭い思いをさせてしまうことを、どうか忘れないでほしい。
最後に、新郎諸君へ。ヨメさんのところに帰るだけでなく、ときには親のところにも行ってあげてほしい。照れ臭いかもしれないが、そこをグッと我慢して、子供の顔をして、お父さんお母さんのもとへ帰るのだ。それだけで、立派な親孝行になるのだから。
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