私たち不動産業者の天敵は、どんな人種だろうか。
同業者じゃないかって? 確かに全く違うとは言えない。冗談はさておき、その人たちとは、占い師の方々なのである。
お客様が家を見に来られるとき、彼らはくっつき虫みたいに付いてきて、やれ「トイレが北にあるからイカン」、やれ「正中線の上に浴槽があるからダメ」とケチをつけ、あげくの果てには「この家は鬼門にあるので、家族の方がガンになる恐れがあります」などと大胆不吉
な予言までするのだ。まるでノストラダムス、いやノストラダマスのように。
家を買うのは、人生のうちで最も大きな仕事、やりかえはできない。だからお客様が縁起をかつぐために、占い師に相談される気持ちはよくわかる。私は彼らの、いわば“人の弱み”につけこむような商売のやり方が許せないのだ。
そもそも、彼らはいったい何を根拠に上のようなセリフを吐くのだろうか。もちろん、家相のことは私もよく知っている。しかし、南西から北東に伸びている日本で家を建てようとすると、北東の方角、いわゆる鬼門を避けるのはたいへん難しいことになってしまう。彼らの言うことが本当なら、日本の家に住んでいる人の多くが、家相のために不幸になっているはずではないか。
経済状況を反映してか、最近、競売物件の人気が高まっている。10年前なら、「そんな縁起の悪い家を誰が買うか」といった感じだったが、いまでは価格や立地などの条件が良ければ売れる。なぜか。家や店を手放すようになったのは持ち主に原因があるのであって、縁起のいい、悪いは後にも先にも関係ないと考える人が増えてきているということだ。実際、厄よけの札が貼られているにも関わらず、競売にかけられている物件をよく目にする。大切なのは神様の力ではなくて、やはり人の力なのだ。
こんな話がある。昭和7年、躍進期にあった松下電器の社長、故松下幸之助が新工場を建てようとしていた土地が鬼門にあたったそうだ。周りの人は、縁起が悪いので場所をかえるよう進言した。松下翁も悩んだが、日本地図を頭に思い浮かべ、「鬼門ゆうたら、日本じゅうが鬼門やないか。よし、ほんなら気にせんとこやないか」。そして、鬼門で大成功して迷信を打ち破ってやろうと決意したというのである。その後の松下電器の歴史は、みなさんもよくご存知であろう。
とは言っても、人間はやはり臆病なもの。かくいう私も、である。“世にも奇妙な物語”は、からきし苦手だ。だからそういった話には、“知らぬが仏”を決め込むようにしている。知ってしまうと、どうしても意識してしまうものである。
しかし、占い師と組んで商売をすると、売れない土地も売れるようになって儲かるかもしれない。いやいや、やめておこう。そんなことをすると、バチがあたるであろう。
※松下幸之助のエピソードは「松下電器産業株式会社ホームページ内、松下幸之助物語 第4回‐2『鬼門』」を参考にしました
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